キオクシア決算、7〜9月の純利益は33倍
それでも株価が16%下げた理由
会社見通しの「31倍」を上回って着地した。来年の生産能力は売り切れ、株主還元の方針も示された。それでも売られた理由を、株主の目線で整理する。
キオクシアの7〜9月期決算は、会社の見通しを上回った。
7月の時点で、会社はこの3か月の純利益を「前年同期の31倍」と見込んでいた。結果は33倍だった。来年の生産能力はほぼ顧客に割り当て済みで、会社は「SOLD OUT」と表現した。初めての配当と、新しい株主還元の方針も発表した。
ところが、決算後の最初の取引日となった11月2日、株価は約16%下げた。
決算は良かったのに、なぜ売られたのか。この記事では、まず良かった点を確認し、そのうえで気になる点を3つ整理する。結論を先に言えば、気になる点はあるが、稼ぐ力と来年の需要の見通しという好材料のほうが大きいと筆者は考える。
📌 3行で分かること
・7〜9月の純利益は前年同期の33倍で、会社の見通し(31倍)を上回った。来年の生産能力は「SOLD OUT」で、初配当と、中長期で余剰資金の100%を還元する方針も出た
・それでも株価は決算後に約16%下げた。10〜12月期の見通しが横ばいで、市場の期待に届かなかったためと報じられている。会社は出荷時期のずれを挙げ、1〜3月期の再加速を見込む
・筆者は、高い利益の水準と来年の需要の確保という好材料の方が大きいと見る。次は、1〜3月期の再加速と販売価格の動きを追う
Ⅰ.キオクシアの7〜9月期は、売上も利益も会社見通しを上回った
結論から言うと、売上・営業利益・純利益のすべてで、7月に会社が示した見通しを上回った。
純利益は、親会社の株主に帰属する四半期利益を指す(以下同じ)。いずれも2026年7〜9月の3か月間の数字で、過去最高だ。
規模の大きさは、前の年度と比べると分かりやすい。2026年3月期の1年間の売上高は2兆3,376億円だった。この7〜9月期は、わずか3か月で、その1年分を上回った。売上のうち、本業の儲けである営業利益が占める割合(営業利益率)は80.4%に達した。
伸びの中身は、価格と数量の両方だ。決算説明会での会社説明によると、NAND型フラッシュメモリの平均販売単価(ASP)は、米ドルベースで前の四半期より20%台半ば上がった。記憶容量ベースの出荷量も、10%台前半増えた。生成AI向けを中心に、データセンターの需要が強い。
では、7月に話題になった「31倍」という見通しは、どう着地したのか。
Ⅱ.「純利益31倍」の見通しは、33倍で着地した
結論から言うと、7〜9月の純利益は前年同期の33倍で、会社見通しの31倍を上回った。直前の3か月と比べても、6割増えている。
実績は、7月31日の会社見通しより6.7%多い。前年同期(2025年7〜9月)の純利益は407億円だった。
前年の利益が小さかった分、倍率は大きく出る。そこで直前の4〜6月期(8,422億円)と比べると、61%増えた。訴訟の引当金などの一時的な項目を除いた会社独自の指標(Non-GAAP)でも、52%増えている。
ここまでは足元の数字だ。今回の決算説明会で、会社はもう一歩先の需要についても強気な見方を示した。
Ⅲ.来年の生産能力は「SOLD OUT」。どういうことか
結論から言うと、キオクシアが来年作れる分は、すでにほぼ全部、買い手が決まっている。2028年の分も、半分超が長期の契約で押さえられている。
決算説明会で、会社は「2027年の生産能力は、顧客向けの割り当てがほぼ完了した」と説明し、これを「SOLD OUT(売り切れ)」と表現した(EE Times Japanの報道)。工場が来年1年間に作れる量のほとんどについて、どの顧客に届けるかが、すでに決まっているという意味だ。
先の分も埋まり始めている。2028年については、複数年の長期供給契約(LTA)によって、記憶容量ベースの出荷量の50%を大きく上回る部分が確約済みだという。2028年に出荷する量の、半分超の行き先が決まっているということだ。会社は、この契約を増やすか、想定以上の需要に備えて余地を残すかを、顧客と協議しているとした。2029〜2030年を見すえた長期の取引の枠組みについても、協議を始めたという。
株主にとっての意味は3つある。
- 売上の見通しが立ちやすい:来年の販売数量が、ほぼ顧客への割り当てで決まっている。メモリは需要の波が大きい業界なので、先の数量が見えることの価値は大きい
- 顧客自身が、先まで需要が続くと見ている:買い手は、データセンター事業者などの大口顧客だ。2年先の分まで長期の契約で押さえようとしていること自体が、顧客が需要の継続を見込んでいる表れだ
- 成長投資の裏付けになる:会社は、長期契約の狙いを、需要の見える化と、成長投資の裏付けの確保だと説明している
会社は、NAND市場全体の需要(記憶容量ベース)の伸びを、2026年は10%台後半、2027年は20%台前半と見込む。副社長執行役員の河村芳彦氏は、「明らかにスーパーサイクルに入っている」と述べた。
ただし、割り当てが済んだのは、いま計画している生産量だ。販売価格や利益の額まで決まったわけではない。この点は、Ⅴ章で見る。その前に、稼いだ現金の使い道を確認しておく。
Ⅳ.稼いだ現金で、初配当と新しい株主還元の方針
結論から言うと、キオクシアは初めての配当を決め、余剰資金の100%を株主に還元する方針を打ち出した。
現金の積み上がりは大きい。4〜9月の半年間で、本業で得た現金(営業キャッシュ・フロー)は2兆3,796億円だった。9月末の現金は1兆3,973億円で、3月末の4,707億円から約3倍に増えた。借入金と社債の合計(6,039億円)を、手元の現金が大きく上回る。自己資本比率(親会社所有者帰属持分比率)は、3月末の37.9%から49.8%に上がった。
その現金を、株主にも回し始めた。8月には自己株式の取得に8,003億円を使った。そして今回、10月30日の取締役会で、次の株主還元の方針を決めた。
設備投資・研究開発・人材への投資・M&Aなどの必要な支出をまかなったうえで、手元の現金が借入を上回る状態(ネット・キャッシュ)を維持する。そのうえで、機動的な自己株式の取得と累進配当を基本方針とし、中長期的に余剰となった資金の100%を株主還元に充てる。(同社「株主還元方針及び剰余金の配当に関するお知らせ」を筆者が要約)
累進配当とは、配当を減らさず、維持するか増やしていく方針のことだ。業績の波が大きいメモリ専業の会社が、この方針を掲げた意味は小さくない。
初めての配当は、9月30日を基準日とする中間配当で、1株90円、総額479億円。12月8日から支払われる。この90円は、10月1日の株式分割(1株→3株)の前の株数に対する金額で、分割後の1株に直すと30円になる。
配当利回りは、30円を11月2日の終値で割ると約0.26%になる。中間配当だけで計算した数字で、期末配当の予想は出ていない。なお、この中間配当の基準日は9月30日で、これから買う株で今回の配当を受け取れるわけではない。これまでの還元額では、8月の自己株式の取得が大きい。
好材料がこれだけそろいながら、株価は下がった。次に、その理由と気になる点を整理する。
Ⅴ.株価はなぜ売られたのか。気になる点は3つ
結論から言うと、売られた主な理由として報じられているのは、10〜12月期の見通しが横ばいで、市場の期待に届かなかったことだ。
決算は、10月30日(金)の取引終了後の18時45分に発表された。株価の動きを、決算の前と後に分けて並べる。
| 日付 | 終値 | 前日比 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 10月29日(木) | 14,505円 | − | 決算の前日 |
| 10月30日(金) | 13,470円 | −7.14% | 決算発表の前の取引時間中に下落 |
| 11月2日(月) | 11,345円 | −15.78% | 決算後の最初の取引日 |
出所:Yahoo!ファイナンス、株探。株価はすべて株式分割(2026年10月1日、1株→3株)の後の表示。
10月30日の下げは、決算発表の前に起きている。米サンディスクなど、米国のメモリ関連株が大きく売られた流れを受けたものと報じられている(フィスコ)。決算への反応と言えるのは、11月2日の下げだ。この日の出来高は約9,783万株だった。
なお、分割前に書いた記事「キオクシア決算後PTS乱高下、株価急落の理由を検証」の株価と比べる場合は、3倍して見る必要がある。11月2日の終値は、分割前の表示に直すと約34,035円にあたる。
- ①10〜12月期の見通しが横ばいで、市場の期待に届かなかった:会社の見通しは、純利益1兆3,600億円(7〜9月比+0.3%)、Non-GAAP営業利益2兆円(同+0.6%)。会社は「データセンター向けの需要は旺盛だが、為替の悪化を見込む」と説明する。想定為替レートは1ドル=157円で、7〜9月の実績(161円)より円高を置いている。出荷の時期も影響する。会社によると、一部の製品を7〜9月期に前倒しで販売した一方、生産に時間のかかるデータセンター向けなどの一部の出荷は1〜3月期にずれる。このため10〜12月期の出荷量はほぼ横ばいで、会社は1〜3月期に出荷量が大きく増え、成長が再び加速すると見込んでいる(EE Times Japanの報道)。一方、市場の予想(コンセンサス)は、Non-GAAP営業利益で2兆3,000億円程度(フィスコ)、純利益で1兆6,000億円弱(MINKABU PRESS)とされ、会社の見通しはこれを下回った。2四半期続いた急成長が、いったん足踏みする形になった
- ②今後の伸びは、販売価格と生産能力の拡大に左右される:Ⅲ章で見たとおり、来年の生産能力はほぼ割り当て済みだ。需要が強くても、短期の出荷量には工場の能力という上限がある。会社は、四日市工場と北上工場の既存の建屋のスペースを使って生産能力を増やし、その後は北上工場の新しい建屋(2029年度中の稼働予定)で段階的に広げる方針で、2026年度の設備投資も一部前倒しする。それでも当面の利益の伸びは、販売価格の動きに左右される面が大きい。会社は、2027年を通じてNANDの供給不足が続き、ASPも基本的に上がっていくと見る一方、上昇の幅については「引き続き注視していく」としている(EE Times Japanの報道)
- ③需給の重さ:株探によると、10月23日時点の信用残高にもとづく信用倍率(信用買いの残高が、信用売りの残高の何倍あるか)は、約30倍だった。決算前の時点の数字で、11月2日の下落後の残高ではない。買い残が多いと、株価が戻る場面で売りが出やすい。11月2日の終値は、分割後の最初の取引日(10月1日)の終値19,100円より約4割低い
①②はこの先の業績の伸び、③は株式市場の需給の話だ。7〜9月期の実績そのものを否定する材料は、見当たらない。
Ⅵ.それでも好材料の方が大きい。次に見る3つの点
結論から言うと、10〜12月期は利益の伸びが大きく鈍るが、利益の額は過去最高だった7〜9月期とほぼ同じ高い水準を保つ見通しだ。この稼ぐ力と、来年の需要の確保の方が、重い材料だと筆者は考える。
来年の生産能力はすでに売り切れており(Ⅲ章)、稼いだ現金は株主に返す方針も決まった(Ⅳ章)。市場は「伸びの鈍化」に反応したが、「稼ぐ力」と「需要の見通し」は、むしろ今回の決算で強まった。
次の決算までに、筆者は次の3点を見ていきたい。
- 会社が見込む1〜3月期の再加速が実現するか:会社は、ずれた出荷が1〜3月期に加わり、成長が再び加速すると見ている。次の決算で示される1〜3月期の見通しが、最初の答えになる
- 販売価格の上昇が続くか:Ⅴ章の②のとおり、当面の利益の伸びは販売価格の動きに左右される面が大きい。ASPの変化は、決算説明会で毎回示される
- 長期契約がどこまで広がるか:2028年分の確約量や、2029〜2030年の枠組みの協議が進めば、需要の見通しはさらに先まで見えるようになる
結び——「売り切れ」の会社を、今後も追っていく
冒頭の問いに戻る。決算は良かったのに、なぜ売られたのか。今回の下落のきっかけは、10〜12月期の見通しが市場の期待に届かなかったことだ。高い利益を維持するだけでは、市場が求めた「次の伸び」には足りなかった。
一方で、会社見通しを上回った7〜9月期、来年分の生産能力の売り切れ、そして初配当と還元方針は、株主にとって重要な好材料だ。
「売り切れ」は、計画した供給量に買い手がいることを示している。その強い需要を、この先の利益につなげられるか。販売価格を保ち、増産を進められるかが、次の焦点になる。
筆者は、販売価格、増産計画、長期契約の動きを中心に、キオクシアをこれからも追っていきたい。
キオクシアの事業の中身や、これまでの株価の経緯、大株主の動きは「キオクシア決算後PTS乱高下、株価急落の理由を検証」で詳しく書いている。メモリの検査装置を手がけるアドバンテストの決算は、「アドバンテスト決算は市場予想超え。需要は2027年も続くか」で取り上げた。あわせて読んでほしい。
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品・銘柄・国・地域への投資を推奨するものではありません。個別株の将来の業績・株価を保証するものではなく、記載した見通しは会社が公表したもの、市場予想(コンセンサス)は報道にもとづくものです。掲載データは2026年10月30日〜11月2日時点の公開情報(キオクシアホールディングスの2027年3月期第2四半期決算短信、株主還元方針及び剰余金の配当に関するお知らせ、各種報道)に基づくものであり、状況は流動的に変化します。「純利益」は親会社の所有者に帰属する四半期利益を指します。決算説明会での会社説明・経営陣の発言(生産能力の割り当て、長期供給契約、販売単価・出荷量の変化、出荷時期のずれ、生産能力の増強計画、市場見通しを含む)は報道にもとづくもので、一次資料で確認できていないものを含みます。株価は、2026年10月1日の株式分割(1株→3株)の後の表示です。投資には元本割れのリスクがあります。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。