SpaceX決算「予想超え」なのに株価急落。なぜ

SpaceX、IPO後初の決算は「予想超え」
なのに株価急落——何が起きたのか

2026年8月4日発表・2026年8月6日終値114.92ドルまでの値動きを検証

前回、「SpaceXが上場した」という記事を書いた。公募価格135ドルに対し、初値150ドル、上場初日終値160.95ドルという好発進だった。
あれから約2ヶ月。2026年8月4日、SpaceXは上場企業として初めての四半期決算を発表した。売上高は市場予想を大きく上回り、赤字もほぼ半減。数字だけ見れば文句のつけようがない内容だった。

それなのに、株価は下がった。しかもその2日後には史上最大級のロックアップ解除が待ち構えていた。「これで暴落するはずだ」という空売り筋の読みにも、株価は素直に従わなかった。予想が、何度も裏切られている。今、この銘柄の評価は誰にも定まっていない。

目次

①決算——数字は本当に良かったのか

結論から言うと、数字だけを見れば非の打ちどころがない好決算だった。

売上高78.1億ドル前年同期比+92%
市場予想(約68〜69億ドル)を上回る
純損失5.41億ドル前年同期(約10億ドル)から
約半減
調整後EBITDA35.4億ドル前年同期比+191%
(12.1億ドルから増加)

セグメント別に見ても勢いは本物だ。柱であるConnectivity(Starlink)事業は売上42.9億ドル(前年同期比+66%)、契約者数は1,200万件と、四半期として過去最高の純増(170万件超)を記録した。AI事業も売上25.6億ドル(同+247%)まで急拡大し、今期初めてAdjusted EBITDAが黒字化(11.5億ドル)した。

1株当たり損失も▲0.09ドルと、市場予想の▲0.26ドルより小さい赤字にとどまった。会社の実力は、確かに前進している。それなのに、である。

②なぜ好決算なのに株価は下がったのか

結論から言うと、原因は「稼いだ額の倍以上を、その場で使い切った」設備投資の規模にある。

今四半期の設備投資(CapEx)総額は183.7億ドル。売上高(78.1億ドル)の2倍を優に超える金額だ。そのうち約158億ドル(全体の86%)がAIインフラに投じられた。

決算説明会でのCFO(Bret Johnsen氏)の発言

「残り2四半期のCapExも、今四半期とおおむね同水準になると考えてほしい」

IPOで約857億ドルを調達したとはいえ、この消費ペースが続けば資金がどこまで持つのか——投資家が身構えたのは、この一点だった。加えて、マスク氏は決算説明会で「売上1兆ドル到達」の時期について、以前の「約束(Promise)」という言葉ではなく「予測(Projection)」という言葉を使い、「2029年になる可能性もゼロではない」と幅を持たせた発言をした。この慎重な言い回しも、短期筋の売りを誘ったとみられている。

なぜ宇宙・ロケット会社が、ここまでAIに投じるのか。背景には、Starlinkの通信網と大規模な計算基盤を組み合わせ、軌道上にもデータセンターを持つという構想がある。決算説明会でCFOは、AI計算資源への投資について「1年未満で回収できている」と説明した。経営陣は自信を見せているが、市場はこの回収ペースが本当に計画通り続くのかを、慎重に見極めようとしている段階だ。

③タイミングが重なった、もう一つの重し——ロックアップ解除

結論から言うと、SpaceXのロックアップは「一斉解除」ではなく、条件をクリアするごとに段階的に売却枠が広がる特殊な仕組みで、その第一波が決算のわずか2営業日後に重なった。

一般的な新規上場企業は「上場から180日後に一斉解除」というシンプルな規定が多い。だがSpaceXは史上最大のIPOだったこともあり、市場への急激な影響を和らげるため、段階的解除(staggered release)という細かい規定を設けている。

📅 ロックアップ解除のスケジュール

8月6日
第1波 早期解除対象の最大20%(約9億1,150万株)が売却可能に完了
8月12日〜秋
上場から70日・90日・105日・120日・135日の各節目ごとに、最大7%ずつ追加解除今後
Q3決算後
7〜9月期決算発表の直後に、最大28%が追加解除される規定今後
12月8日頃
主要な180日間ロックアップが満了。流通株式数が発行済みの4〜5%から約40%へ急拡大する見通し要注目
2027年6月頃
マスク氏保有分(約64億株)は366日間の別枠ロックアップが満了

なお、株価がIPO価格(135ドル)を30%以上上回っていれば、8月6日にさらに追加で10%が解除されるボーナス条項もあったが、株価が届いていなかったためこの追加解除は発生しなかった。SpaceXは、他の新規上場銘柄とは違い、今後も何度も「解除の波」が繰り返しやってくる銘柄だという点は覚えておきたい。

④株価はどう動いたか——予想を裏切り続ける展開

結論から言うと、決算前も、決算直後も、ロックアップ解除の当日も、そのつど「多くの人が予想していた方向」とは逆に動いている。

時期 株価 状況
6月16日 225.64ドル 上場後の高値
6月下旬〜7月 145〜172ドル台 上下しつつ緩やかに切り下げ
8月3日(決算前日) 安値104.83ドル ロックアップ警戒で売られる
8月4日(決算発表日) 終値126.71ドル 決算発表前の通常取引はむしろ上昇
8月6日(ロックアップ解除日) 終値114.92ドル(一時105.11ドル) 安値から切り返して着地

株価はいずれも終値ベース。8月4日の決算は米国時間の取引終了後(現地午後3時過ぎ)に発表されており、当日の終値自体は決算発表前の水準。

決算後は「好決算でも失望売り」が先行したが、それに続くはずだった「ロックアップ解除でさらに下落」という空売り筋の読みも、結果としては外れた。8月6日は一時105ドル台まで売られたものの、前日比+2.6%の114.92ドルまで買い戻されて取引を終えている。「売りたい人」は確かに多かったが、それを上回る「押し目買い」の需要があった、ということだ。

この一連の流れから読み取れるのは、「株価が正しく評価された」ということではなく、「まだ市場全体としての評価が定まっていない」ということだろう。

⑤決算と同じ週に、さらなる大型投資——「テラファブ」

結論から言うと、CapExへの警戒が広がっていたまさにその中で、さらに大型の投資計画が上乗せされた。

ロックアップ解除と同じ8月6日、SpaceXはテスラとの合弁で、テキサス州にAI半導体製造複合施設「テラファブ(Terafab)」を建設すると正式発表した。当初投資額は168億ドル(約2.7兆円)、延床面積1億平方フィートの巨大施設で、少なくとも3,000人の雇用を見込む。後続フェーズを含めた総投資額は1,190億ドルを超える可能性があるとも報じられている。

目的は、Optimusロボットや軌道上AIインフラに使う半導体を自前で確保すること。マスク氏が目指す需要規模に対し、現在の世界の半導体製造能力では2%程度しか賄えないという試算が背景にあるという。構想自体は3月に公表されていたが、投資額が正式に固まったのは今回が初めてだ。

📌 「稼いだ以上に使うペースが心配だ」という決算への警戒が広がっていたまさにその週に、新たな大型投資が発表された——このタイミングの重なりは、CapExをめぐる投資家の不安を和らげるものではなかった。なお、地元テキサス州グライムズ郡では、施設建設に対する住民の反対の声も一部で上がっている。

⑥それでも強気材料は本物——Starlink・AI黒字化・Cursor買収

結論から言うと、懸念材料の一方で、成長を裏付ける事実も確かに積み上がっている。

🛰️
Connectivity
Starlink契約者
1,200万件

四半期として過去最高の純増(170万件超)。ARPU(月間平均収益)は66ドルで横ばいを維持。

🤖
AI
AI事業が初黒字化
EBITDA+11.5億ドル

Cloud Services Agreementsだけで契約総額141億ドル。ARR(年間経常収益)100億ドル目標を前倒しで年内達成の見通し。

💻
M&A
Cursor買収
600億ドル

AIコーディングツール大手を買収し、2026年第3四半期中のクロージングを予定。Grok 4.5と組み合わせた開発体制を強化する。

「稼いだ分をすべて次の投資に回している」という構図そのものは、上場前から変わっていない。むしろ、Starlinkという現金創出源が、投資を続けるための土台としてより強固になっている、とも言える。

⑦Morningstarの警鐘——強気一色ではない

結論から言うと、独立系のアナリストの中には、今の株価水準そのものに疑問を呈する声もある。

格付け・調査大手のMorningstarは、SpaceXの適正企業価値を7,800億ドル(1株62ドル)と算定している。ロケット・Starlink事業を約6,110億ドル、AI事業については3つのシナリオ(Moonshot:7%、Base:50%、No Go:43%)を確率加重して約1,700億ドルと評価した合計値だ。この試算通りなら、直近の株価水準(100〜150ドル台)は、いまだ大幅な割高圏にあるという見方になる。

一方でウォール街のコンセンサス目標株価は200ドル台と、Morningstarの評価とは大きな開きがある。証券会社ごとの評価が真っ二つに割れている、という状態そのものが、この銘柄の評価の定まらなさを物語っている。

両者の評価がこれほど割れる背景には、見ている時間軸の違いがあるのかもしれない。強気派は5〜10年先に完成するであろう宇宙・AIの巨大インフラを見据えているのに対し、Morningstarのような慎重派は、目先の数四半期のキャッシュフロー悪化を重く見ている。直近の株価下落は、短期的にはこの慎重な見方に軍配が上がった形だが、それによって長期の成長ストーリーそのものが否定されたわけではない。

⚠️ あわせて頭に置いておきたいこと

ガバナンス:マスク氏は種類株(1株10議決権のクラスB株)を通じて、議決権の約85%を握る「支配下会社」。
テスラとの関係:テラファブでの合弁に加え、両社の統合・再編を巡る観測も一部で語られているが、現時点では確認された事実ではない。
ロックアップの波:③で見た通り、解除は一度きりでは終わらない。今後も節目ごとに需給悪化への警戒が繰り返される可能性がある。

好決算でも売られ、解除でも耐えた。
どちらが「正しい」評価かは、まだ誰にもわからない。

── KABU気・景気は気

⑧投資家は何を見るべきか

結論から言うと、一つ一つの値動きに「正解」を求めすぎず、繰り返しやってくる節目を落ち着いて見ていくことが大切だ。

前回記事のチェックリストを、今回の決算を踏まえて更新したい。

📋 これから追いたい5つのポイント

次回・次々回のCapExが、CFOの発言通り「今期並み」で推移するか
8月12日以降、段階的なロックアップ解除のたびに株価がどう反応するか
テラファブの後続フェーズ投資が、いつ・どの規模で確定するか
Starship・Starlink V3衛星の投入が、計画通り2027年前半に進むか
12月8日頃の主要ロックアップ満了で、流通株式数が急拡大した際の需給

SpaceXは、次の四半期の利益がどうこうという会社ではなく、5年・10年先のインフラを創ろうとしている会社だ。だからこそ株価の動きは激しく、しかも今回のように「予想と逆」に動くことが繰り返し起きている。一括で大きく張るより、こうした節目を一つずつ確認しながら、時間を分けて向き合う銘柄だと言えそうだ。

📋 SpaceX(SPCX)IPO後初決算まとめ
項目 内容
決算発表日 2026年8月4日(現地時間市場引け後)
売上高 78.1億ドル(前年同期比+92%、市場予想比+約13%)
純損失 5.41億ドル(前年同期の約10億ドルから半減)
調整後EBITDA 35.4億ドル(前年同期比+191%)
設備投資(CapEx) 183.7億ドル(うちAI関連158億ドル)
Starlink契約者数 1,200万件(四半期として過去最高の純増)
ロックアップ解除(第1波) 8月6日、最大9億1,150万株(約20%)
テラファブ投資 当初168億ドル(テスラとの合弁、総額1,190億ドル超の可能性)
Morningstar適正価値 7,800億ドル(1株62ドル)
株価(8月6日終値) 114.92ドル(IPO価格135ドルを下回る水準)

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