NTT決算後、IOWNはどこまで進んだか
――増収増益でも残る「利益化」の壁
第1四半期は増収増益、株価も発表後に上昇した。だが、光電融合がNTTの利益を押し上げたと判断するには、まだ足りない数字がある。
NTT(9432)は2026年8月6日13時30分、2026年度第1四半期決算を発表した。株価は発表前の151円近辺から上昇し、終値は154.5円。前日比3.5円高(2.32%)だった。増収増益を市場が好感した可能性はあるが、一日の値動きだけで長期評価が決まったわけではない。
では、決算の中身と、期待を集める「IOWN(アイオン)」の進み具合はどうだったのか。結論を先に言えば、会社全体の業績は堅調に始まり、IOWNの実証用途も広がった。ただし、PEC-2の顧客サンプルやIOWN単独の売上・利益は、今回も確認できない。この記事では、専門用語をできるだけ使わず、「進んだこと」と「まだわからないこと」を分けて見ていく。
Ⅰ.IOWNは、何をしようとしているのか
結論から言うと、IOWNは「電気の配線」を「光の配線」に置き換えていく、という壮大な計画だ。
スマートフォンで動画を見ていると、バッテリーの減りが速いと感じたことはないだろうか。あれは、画面を光らせたり、データを送受信したりするのに、電気をたくさん使っているからだ。実は、私たちが普段目にしないところ——インターネットの裏側にある巨大なコンピューターの倉庫(データセンター)でも、まったく同じことが起きている。
データセンターの中では、無数のコンピューターが電気の配線でつながり、猛烈な勢いで情報をやり取りしている。ところが電気には弱点がある。長い距離を送るほど、また速く送ろうとするほど、電気は熱を持ち、多くのエネルギーを無駄に消費してしまうのだ。渋滞した高速道路で、車が止まったり動いたりを繰り返してガソリンを余計に使うのと少し似ている。
そこで登場するのが「光」だ。光は電気に比べて、同じ距離を送るのに使うエネルギーが少なく、熱もあまり出さない。IOWNというのは、NTTがこの「電気の配線を光の配線に置き換えていく」ことで、情報のやり取りをもっと省エネに、もっと高速にしようという、長期的な取り組み全体の名前である。
ただし、すべてを光に置き換えるわけではない。細かい計算そのものは、今のところ電気の方が得意な作業だ。IOWNの基本的な考え方は、「電気が得意な計算処理」と「光が得意な、高速・大容量のデータのやり取り」を組み合わせる、というものになる。「光の方が常に電気より省エネだから、いずれ全部光になる」というのは、少し単純化しすぎた理解だと覚えておきたい。
では、なぜ今、電気と光の役割分担がこれほど重要になったのか。次はAI時代の「電力の壁」から見ていこう。
Ⅱ.なぜ今、これが重要なのか
結論から言うと、AIブームによって、世界中のデータセンターが「電気の大食い」になっていることが背景にある。
ChatGPTのようなAIに質問を投げかけるたびに、実はその裏側では大量の電気が消費されている。AIが賢い答えを返すためには、膨大な量のコンピューターが同時に動き、それらの間で猛烈な量のデータがやり取りされる。世界中でAIの利用が急拡大する中、データセンターの電気消費量は年々跳ね上がっており、電力会社や国のエネルギー政策を巻き込む社会問題になりつつある。
つまりIOWNは、単なる技術オタクの趣味ではなく、「AI時代を支え続けるためには、電気の使い方そのものを見直さないといけない」という、世界共通の課題に対する一つの解答案として位置づけられている。だからこそ、NTT一社の話にとどまらず、海外の有力企業もこの構想に関わっている(詳しくはⅢ章で触れる)。
Ⅲ.NTTはどこまで進んでいるのか(3つの段階でつかむ)
結論から言うと、IOWNは一つの製品ではなく、「もう実現していること」「今まさに試している最中のこと」「まだ先の未来のこと」の3段階からできている。
一番わかりやすいのは、すでに商用サービスとして動いている「APN」だ。これは都市と都市をつなぐ、いわば光でできた”専用の高速道路”のようなもので、すでにお金を払って使える段階にある。ただし、実際に何社が使っていて、どれくらいの売上になっているのかは、まだ十分には公表されていない。
一方、今まさに正念場を迎えているのが「PEC-2」だ。これはもっと小さいスケールの話で、ネットワーク機器の中で電気と光を変換する部分を、部品のすぐ近くまで引き寄せ、電気の配線を短くする技術になる。NTTのグループ会社は、2026年3月の国際展示会(OFC 2026)で、102.4Tbps級のスイッチを展示すると公式に発表した。6月のInterop Tokyo 2026でも、102.4Tbit/s級の「商用版」を展示すると案内しており、試作機の具体化は進んでいる。
ただし、展示と顧客提供は別の話だ。2025年のロードマップにあった「2026年Q2の光エンジンサンプル」について、顧客へ提供を終えたという公式発表は、2026年8月6日時点でも確認できていない。第1四半期の決算資料にも、その完了を示す記載はなかった。提供されていないと断定することもできないが、「予定どおり提供された」と書ける証拠もないため、ここは引き続き未確認とする。
商用化時期の言い方にも注意がいる。旧ロードマップは2026年Q4の商用サンプルを掲げる一方、NTTの技術解説は2026年度末までの商用化、6月のInterop資料は2027年商用化予定としている。商用サンプルと正式な商用化は同じではなく、この違いだけで延期と断定はできない。ただ、投資家にとっては、提供時期・顧客名・数量が今後の重要な確認点になる。
今回の決算では、PEC-2を使った新しい動きも示された。インドで、PEC-2スイッチをデータセンターへ入れた場合の省電力効果を調べる検討が始まったという。ただし、これは「導入を決めた」「製品を販売した」という発表ではない。実際に設置され、性能評価や購入につながるかはこれからだ。
さらにその先にある「PEC-3」「PEC-4」は、コンピューターの部品(チップ)のすぐ近くまで光を届ける技術で、PEC-3は2028年Q4の商用サンプル提供が目標、PEC-4は2032年以降の計画とされている。どちらも「実用化した」と呼べる段階ではなく、今すぐの話ではなく長期的な将来計画だと捉えておくのがよいだろう。
NTTの資料では、半導体大手のBroadcomや台湾のAccton(通信機器メーカー)との役割分担が示されている。このうちAcctonは自社でも「NTTと共同開発している」と公表しているが、Broadcom側からNTTのPEC-2を採用したという独立した発表は、今のところ確認できていない。NTT側の説明と、相手企業側の発表とでは、確認できる強さが違う、ということは覚えておきたい。
第1四半期で増えたIOWNの実証:チリのCODELCO銅山ではAPNを使う重機遠隔操作の実証が始まった。国内では2026年7月、全国8拠点を100Gbps級で結ぶ「GPU over APN Testbed」が始動した。用途と検証環境の拡大は前進だが、いずれもIOWN単独の売上やPEC-2の量産採用を示す数字ではない。
技術の段階を整理したところで、次はIOWNを象徴する「電力8分の1」という数字が、実際には何を示すのかを確認する。
Ⅳ.「電力8分の1」の本当の意味
結論から言うと、話題になった「電力8分の1」という数字は、特定の実証システムで得られた結果であり、日常的な効果として捉えるのは早い。
2025年の大阪・関西万博のNTTパビリオンで、「消費電力を8分の1に減らせた」という実証結果が発表され、話題になった。これだけ聞くと「データセンター全体の電気代が8分の1になる」ように思えるが、それは正確ではない。
この「8分の1」は、光の部品単体の効果ではなく、光の部品・データセンター間接続・コンピューターの設計・ソフトウェアという複数の工夫を組み合わせた、万博会場での実証システムとしての成果だ。一般的なデータセンター全体に、そのまま当てはめられる数字ではない。なお、NTTは別に「スイッチ単体では約50%の電力削減」という数字も示しており、これも対象範囲が異なる、別の数字だ。
派手な数字は記事のフックとして魅力的だが、正確に伝えるなら「特定の条件下での実証実験としては、非常に有望な結果が出た」というくらいに受け止めておくのが誠実だろう。
技術の可能性を過大評価せずに押さえたうえで、次は決算と株価がその期待をどう映しているかを見ていこう。
Ⅴ.株価はどう評価されているのか
結論から言うと、第1四半期は増収増益で株価も上昇したが、通期予想は据え置きであり、IOWNの利益貢献が確認された決算ではない。
まず、NTTがどれくらいの規模の会社かを押さえておきたい。2025年度の売上にあたる営業収益は14兆4,091億円、最終的な儲けにあたる当期利益は1兆370億円。これだけの利益があるからこそ、IOWNのような時間もお金もかかる研究開発を、何年もかけて続けられる体力がある。
一方で、会社全体が順調そのものというわけでもない。NTTはもともと「2027年度にEBITDA(利益の一種の目安)を4兆円にする」という目標を掲げていたが、この達成時期を「2030年度」へと後ろ倒しした。IOWNを育てる体力は大きいが、既存の通信事業を含めた会社全体の成長が、当初の計画どおりに進んでいるとは言い切れない。
今回の第1四半期は、営業収益が前年同期比10.9%増の3兆6,177億円、EBITDAが4.3%増の8,362億円、営業利益が4.9%増の4,251億円、NTTに帰属する四半期利益が5.8%増の2,748億円だった。増収増益で、営業収益は第1四半期として過去最高となった。
決算の読みどころ:数字は堅調だが、通期予想は営業収益15兆600億円、営業利益1兆7,100億円、当期利益9,800億円のまま据え置かれた。年間配当予想も1株5.40円で変更なし。さらにEBITDAマージンは前年同期の24.6%から23.1%へ低下している。「売上が伸びた」ことと「収益性まで大きく改善した」ことは分けて見る必要がある。
セグメントでは、総合ICT、グローバル・ソリューション、地域通信、その他の各分野が増収増益だった。ただし、会社はIOWN単独の売上や利益を開示していない。今回の増益のうち、IOWNがいくら寄与したかは資料から切り分けられない。
| 銘柄 | 株価 | 時価総額 | 予想PER | PBR | 予想配当利回り |
|---|---|---|---|---|---|
| NTT(9432) | 154.5円 | 13.99兆円 | 12.83倍 | 1.29倍 | 3.50% |
| KDDI(9433) | 2,901円 | 11.63兆円 | 約14.78倍 | 2.18倍 | 2.90% |
| ソフトバンク(9434) | 228.6円 | 10.98兆円 | 19.52倍 | 3.76倍 | 3.85% |
※2026年8月6日終値ベース。NTT・ソフトバンクのPER、各社のPBR・配当利回り・時価総額はYahoo!ファイナンスの同日時点表示。KDDIは8月7日の決算発表前で同サイトの予想PERが非表示だったため、5月12日公表の会社予想・調整後EPS196.29円を用いて当方計算した。通常のPERとは定義が異なるため、単純比較には注意が必要。
「PER」や「PBR」は、株価がその会社の利益や資産に対してどれくらい割高・割安かを見る物差しだと思ってほしい。数字が低いほど、今のところ「割安」に見えるということだ。NTTはこの3社の中で一番数字が低い。ただし、その理由を「IOWNへの期待がまだ株価に織り込まれていないから」と単純に決めつけることはできない。既存の通信事業の成熟度、成長率、設備投資の負担など、低い理由には複数の要因があり得る。IOWN単独の業績がまだ公表されていない以上、それがどこまで株価に織り込まれているかを一点の数字で断定するのは難しい。
8月6日のNTT株は、前日終値151.0円から154.5円へ上昇した。13時30分の決算発表後に151円近辺から買われたため、増収増益が安心材料になった可能性はある。ただし、通期予想は据え置きで、終値は2024年1月の高値192.9円をなお下回る。決算当日の2.32%高を、そのまま長期的な上昇トレンドやIOWN成功の証明とみなすのは早い。
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決算と株価の反応は前向きだった。最後に、それがIOWNの長期的な投資判断をどこまで変えるのかをまとめる。
Ⅵ.結論——夢と現実のあいだ
結論から言うと、第1四半期で業績とIOWNの実証は前進したが、「誰が製品を買い、NTTがいくら儲けるのか」はまだ確認できない。
ここまで見てきたように、IOWNは決して絵に描いた餅ではない。APNはすでに有料の商用サービスとして提供され、チリの鉱山実証や全国8拠点のGPUテストベッドへ用途を広げた。PEC-2も102.4Tbit/s級の商用版展示やインドでの省電力化検討まで進み、技術と実証の動きは具体的になっている。
ただし、NTTの株主にとって本当に大事なのは、「技術としてすごいか」ではなく、「それが売上や利益になるか」だ。NTTが儲ける入口は、APNの利用料、光部品やスイッチの販売、データセンターやAI向けサービスなど複数考えられる。しかし、実証参加と有償契約、商用サンプルと量産販売は、それぞれ違う段階だ。光市場が成長しても、価格競争や他社との利益配分によって、NTTの取り分が小さくなる可能性もある。
2026年度第1四半期は会社全体として増収増益だったが、IOWN単独の売上・利益は開示されなかった。PEC-2のQ2顧客サンプル提供、大手企業による正式採用、OCPでの動態展示の詳細も、8月6日時点では確認できない。したがって今回の結論は、「業績は堅調、技術と実証も前進。ただし、IOWNが株主利益へ変わったかは、まだ検証中」となる。
これから、この5つに注目したい
① PEC-2のQ2光エンジンサンプルについて、提供先・数量・評価が公表されるか
② 8月11〜12日のOCP APAC Summitを含め、動態展示の正式な内容と実施結果が出るか
③ 「2026年Q4商用サンプル」「2026年度末商用化」「2027年商用化予定」の関係が整理されるか
④ 海外の大手IT企業が、NTTのPEC-2を「採用した」と実名で発表するか
⑤ IOWN関連の受注・売上・出荷数・利益率が、具体的な数字で開示されるか
光の使い道は、確実に広がっている。
あとは、実証が契約へ、契約が利益へ変わるかどうかだ。
── NTT・IOWNを追うための結論
8月6日の増収増益と株価上昇は、決算後の最初の確認材料にはなった。ただ投資として見るなら、一日の値動きだけで結論を出さず、この記事で挙げた5つのポイントが一つずつ現実になるかを追いかけたい。NTTの大きな経営体力がIOWNを育てる強みである一方、技術の前進が株主利益へ届くまでには、採用と収益の証拠が必要だからだ。
主な確認資料:
NTT「2026年度 第1四半期決算について」「決算短信」「補足資料」(2026年8月6日)、NTT Innovative Devices「Meet us at OFC 2026」(2026年3月9日)、NTTドコモビジネス「Interop Tokyo 2026において…展示」(2026年6月8日)、OCP「2026 OCP APAC Summit Schedule Overview」、KDDI「2026年3月期決算」、Yahoo!ファイナンス各銘柄ページ(株価指標は2026年8月6日15時30分時点)。PEC-2のサンプル・採用状況は各社の公式発表を8月6日に再検索した。
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