龍神様は厳しくて優しい
——箱根神社・九頭龍神社編
石橋山の戦いで源頼朝を匿った古社から、芦ノ湖畔にひっそりと佇む龍神の社まで。箱根三社参りのはずが、龍神水も、駒ヶ岳ロープウェーも、思い通りにはいかなかった一日の記録。
三嶋大社と瀧川神社への参拝を終えた私は、カーシェアの車を借り、箱根へと向かった。目指すは箱根神社、九頭龍神社、そして箱根元宮をめぐる「箱根三社参り」。三島から車で30〜40分、思ったより早く着いた。
①箱根神社——石橋山の戦いで頼朝を匿った古社
到着してみると、境内周辺には大型バスと、行き交う外国人観光客の姿が多数。落ち着いて参拝できるだろうか——そんな不安を抱えながら、入口へ足を踏み入れる。

一礼して鳥居をくぐると、ふっと空気が変わるのがわかった。箱根神社は757年、万巻上人が箱根大神の御神託を受けて創建したと伝わる古社。治承4年(1180年)、石橋山の戦いに敗れた源頼朝をこの地でかくまい、助けたことから、鎌倉時代以降は武家の信仰を集めて勢力を拡大したという。「関東総鎮守」と呼ばれるのも納得の、堂々たる杉並木の参道だった。
本殿へと続く石段は、約89段。「厄(89)」にちなんだ厄落としの石段として知られているという。

参道脇には「矢立杉」という御神木もある。かつて坂上田村麻呂が東北へ向かう途中、この杉に矢を献じて武運を祈願したところ、見事に願いが叶ったことから、後世の武将たちもそれにならって矢を奉納するようになったそうだ。また、本殿脇には「安産杉」という古木もあり、源頼朝が妻・北条政子の安産を祈願し、無事に二代将軍・頼家、三代将軍・実朝が誕生したという逸話も伝わっている。
石段の途中、左手には曽我神社が鎮座している。ここは「お願いの受付をしてくれる」と聞いたので、いったんご挨拶だけして、先の拝殿へと向かった。

神門をくぐると、いよいよ拝殿。様々な言語が飛び交い、ワイワイガヤガヤと賑やかな空気に包まれていた。

拝殿のすぐ隣にあるのが、九頭龍神社の新宮だ。見上げると、天井には見事な龍の墨絵が広がっている。不思議なことに、この場所だけふっと周りから人の気配が消えた。ゆっくりと参拝し、心の中で「後ほど本宮にも伺います」と伝える。

境内の由緒板によれば、九頭龍神社は奈良時代、箱根大神の神力を得た万巻上人が、芦ノ湖に棲み里人に害をなしていた毒龍を調伏し、湖の守護神として祀ったのが起源だという。以来「商売繁盛・心願成就・良縁成就」の神として崇敬され、箱根神社・九頭龍神社(新宮)・箱根元宮・九頭龍神社(本宮)を巡る「両社参り」「三社参り」という参拝の形も伝わっている。
新宮のそばには「龍神水」が湧いている。9体の龍の口から水が流れ落ちる、見応えのある手水だ。

ネットで調べたときは、持ち帰り用の空ペットボトルが授与所で売られているという情報を見ていたので、当然そのつもりでいた。ところが、私が行ったときは、それらしきものを売っている気配がどこにもなかった。売り切れていたのか、そもそもその日は扱っていなかったのかはわからない。仕方なく、手ですくって口に含む。神棚に供える水や、家の観葉植物にあげようと思っていただけに、少し残念な気持ちになった。
でも、まあいい。また来てね、ということね——そう理解することにした。
箱根神社(実用情報)
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町元箱根80-1/元箱根バス停から徒歩約10分/駐車場180台(無料)/境内参拝自由
②九頭龍神社——箱根園から森を抜けて、湖畔の本宮へ
車で数分、箱根園の駐車場に到着した。

これから九頭龍神社の本宮と、箱根元宮へ向かう。気持ちは高まっていた。
ところが、である。箱根元宮へ通じる駒ヶ岳ロープウェーが、まさかの「運転見合わせ」。
なぜだ。天気は晴れているのに——そう思って山の方角を見上げると、頂上付近にはかなり深い霧がかかっている。ああ、また来てね、ということか。二度目である。時刻は昼過ぎ。「朝のうちに来るように」ということなのだと、勝手に理解することにした。また来ます。
というわけで、予定を変更し、まずはゆっくりと九頭龍神社本宮へ向かうことにした。「箱根九頭龍の森セラピーロード」と名付けられた遊歩道を歩いていく。

このエリアは「箱根九頭龍の森」と呼ばれ、入園時間は9時から17時、入園料は大人600円(子供300円)。本州に自生する植物の約7割の種類がここにあるという、自然豊かな森だ。

まず参拝したのが白龍神社。白い鳥居がとても綺麗で、思わず見とれてしまい、写真を撮り忘れてしまった。

かつて白龍大明神の御神木があった場所には、新しい苗木が植えられ、静かに育っていた。
作法としては、願い事を書いた大きな絵馬と、小さな飾り絵馬のついた「白龍ひも」を2本持ち、御神木の周りを3周してから参拝する。大きい絵馬は奉納し、小さい絵馬は持ち帰って家に結んでおく、というのが正式なやり方のようだ。
私はそうとは知らず、なんとなく「この方向に周ったほうがいい気がする」という直感で、反時計回りに周ってみた。ねじと同じで、時計回りは締める=結界、反時計回りは緩める=上昇——そんなイメージを勝手に描きながら、昇り龍をイメージして反対回りにしてみた。
そこからしばらく、森の中を歩く。

やがて、湖の水面がチャポン、チャポンと立てる音が聞こえてきて、その先に朱色の鳥居が霧の中に浮かんでいるのが見えた。ビンビンと来るものがあり、それまでの疲れがすっと抜けていくのがわかった。

そして参拝。誰もいない、静かな空間だった。この場所に参拝させていただけたことに、ただ感謝した。

名残惜しく、しばらくその場に佇んでいた。

すると、白くてふわふわした小さな虫を追いかけて、女の子が近づいてきた。この子たちが、これから先もずっと安心して安全に暮らせる日本であってほしい——そんなことを、ふと強く願った。
九頭龍神社本宮・白龍神社(箱根九頭龍の森)実用情報
箱根園から徒歩約20〜30分(セラピーロード経由)/入園時間 9:00〜17:00(最終入園16:30)/入園料 大人600円・子供300円/モーターボートでの送迎あり(有料)
今回で言えば、箱根元宮に行けなかったことがまさにそれだった。予定が崩れた瞬間、ふと思い出したのが、箱根園に着く前に車窓から見えた「日帰り温泉」の看板——「龍宮殿」だ。汗だくで疲労困憊だった身体は、もう入るしかないだろうと、そちらへ向かうことにした。
芦ノ湖と富士山を望む露天風呂、静かなサウナ。予定になかった時間が、いつのまにか一番の癒しになっていた。狂いが生じたからこそ拾えたものがある——そう思うと、悪くないアクシデントだったと思う。
※価格・空室状況は変動します。最新情報は予約ページでご確認ください。
三嶋大社と瀧川神社、そして今回の箱根。この旅は、ずっとこの調子だった。
次は、新屋山神社へ
箱根三社参りは、結局「二社参り」で終わった。箱根元宮には、また改めて挑むことにする。次回は、日本三大金運神社のひとつとも言われる新屋山神社の本宮・奥宮へ向かう。